鎌田特許事務所
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外国で行われた発明及び外国人によって行われた発明

投稿日: 2020年3月25日投稿者: 北川政徳

 

昨今、外国に研究所や営業所を設ける日本の企業が多くあり、また、外国人の雇用も増えています。このため、外国で新しい発明がされる場合や、外国人により新しい発明がされる場合が増えています。

さて、このような発明がされた場合、特許出願する際に日本の企業が注意すべき点はあるでしょうか?

日本の特許法においては、発明された場所や発明者の国籍・居住地等による出願の制限はありません。このため、企業の本拠である日本に最初の出願をしがちです。しかし、国によっては、そのような発明の出願について制限が課せられている場合があり、出願の際には、注意が必要となります。

 

1.出願の制限

このような出願の制限としては、発明が完成された国に基づく制限、発明者に基づく制限等があります。

発明が完成された国に基づく制限とは、発明が完成された国に最初の出願をすることが求められるというものです。そのような国としては、例えば、アメリカ合衆国、中華人民共和国等が挙げられます。

また、発明者に基づく制限とは、発明者がある国の国民や当該国の居住者等の場合、その国に最初に出願することが求められるというものです。そのような国としては、例えば、シンガポール等が挙げられます。

このような制限は、国家機密、国防、国家安全保障等の観点、輸出管理等を理由に設けられています。

ただし、出願の制限があっても、例外規定が設けられている国もあります。例えば、特許庁長官等、法令で定められた部署又は担当官の許可を受けることにより、当該国以外の国に最初に出願することが可能となる国もあります。

 

2.出願の制限をかけている国

出願の制限をかけている国の例としては、下記の表に記載した国々等があげられます。この表は、WIPOが国際出願をする際の注意としてまとめた記事を参考にしました。詳細は、この記事をご確認頂ければと思います。

(「国際出願と国の安全に関する考慮事項」:https://www.wipo.int/pct/ja/texts/nat_sec.html)

出願の制限をかけている国(抜粋)

 

3.いくつかの国の制限の内容

1)アメリカ合衆国

アメリカ合衆国においては、合衆国内で行われた発明について、何人も、合衆国における出願から6月が経過するまでは、外国に、特許等のための出願等を認めていません(米国特許法(35USC)第184条)。

ただし、特許商標庁長官から取得した許可によって承認されている場合は、合衆国における出願から6月が経過する前でも、外国での出願が認められます。

さて、この規定の例外、すなわち、特許商標庁長官による許可がない場合で、米国出願が提出されて6か月以内の場合において、アメリカ合衆国以外の国に出願することができる場合はあるでしょうか?

これについては、次の条件を全て満たすことができれば可能となります(米国特許法施行規則(37CFR)§5.11(c))。

  • 国務省:国際武器取引規則(22CFRparts120〜130)に含まれる輸出規則に準拠すること
  • 商務省・産業安全保障局:米国輸出管理法(15CFRparts730〜774)に準拠すること。
  • エネルギー省:外国における原子力エネルギー活動規制支援(10CFRpart810)に含まれる輸出規則に準拠すること。

この中で、特に、米国輸出管理法における対象は、米国製の製品、部品以外に技術、ソフトウェアが含まれます。技術の範疇に含まれる発明は、米国輸出管理法の対象となり、実質上、特許商標庁長官から取得した許可による承認を得るか、米国出願が提出されて少なくとも6か月経過するまでは、アメリカ合衆国以外の国に出願することは困難であるといえます。

もし、これに違反した場合、米国特許法においては、その発明について米国特許を受けることができず(米国特許法第185条)、また、1万ドル以下の罰金、2年以下の禁固、又はそれらの併科が課されます(米国特許法第186条)。

 

2)中華人民共和国

中華人民共和国においては、いかなる部門又は個人が国内で完成した発明又は実用新案についても、外国で特許を出願する場合、まず国務院専利行政部門に秘密保持審査を受けなければなりません(中国専利法第20条)。

もし、これに違反した場合、これを中国に出願しても、特許権は付与されません(中国専利法第20条)。

 

3)シンガポール

シンガポールにおいては、シンガポールの居住者は,発明についての特許出願をシンガポール国外で行う等することはできません(シンガポール特許法第34条)。

なお、次の場合は、外国で出願することは可能となります。

  • 登録官の書面による許可を得ている場合。
  • シンガポール国外での出願の2月以上前に,同一の発明についての特許出願が登録局に行われている場合。
  • シンガポールにおける当該出願に関して第33条(シンガポールの防衛又は公衆の安全に不利益な情報)に基づく指示が与えられていないか又はそのような指示がすべて取り消されている場合。
  • 発明についての特許出願が最初にシンガポール以外の国でシンガポール国外居住者により行われている場合。

もし、これに違反した場合、その者は,罪を犯すものであり,有罪と決定すれば5,000ドル以下の罰金若しくは2年以下の拘禁に処し又はそれらの併科が課されます。

 

4.想定例

次に具体的な例として、想定例を示します。なお、実際に検討される場合は、各国の弁理士に相談されることをお勧めします。

Q1:日本の企業が、アメリカ合衆国に設立した研究所で、アメリカ人と日本人とが共同で発明を完成させました。日本の企業は、最初に日本で出願したいと考えています。この際、どのような点に注意するべきでしょうか?

A1:当該発明について、日本に最初に出願することを、アメリカ特許商標庁長官から許可を取得する必要があります。

 

Q2:シンガポールの企業がシンガポールに設立した研究所で、日本の企業と共同研究をし、発明を完成させました。関わった発明者は、シンガポール企業に属するシンガポール人、日本の企業から当該研究所に出向していたシンガポール在住の日本人、及び日本の企業に属する日本在住の日本人です。日本の企業は、最初に日本で共同出願をしたいと考えています。この際、どのような点に注意するべきでしょうか?

A2:発明者のうち、シンガポール人及びシンガポール在住の日本人が、当該発明について、日本に最初に出願することを、登録官の書面による許可を得る必要があります。

(なお、許可を求める書面には、全発明者を明記する必要があります。)