鎌田特許事務所
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外国出願の補助金のスケジュール

投稿日: 2020年1月8日投稿者:

ジェトロ(日本貿易振興機構)では、中小企業に対し、外国出願の費用の1/2の補助金を交付する事業を行なっています。

補助金の上限額は、特許では150万円(外国出願の費用が300万円以上の場合)、意匠および商標では60万円(外国出願の費用が120万円以上の場合)です。

補助金の対象となる中小企業は、製造業の場合、資本金が「3億円以下」または従業員数が「300人以下」の企業です。

補助金の交付対象となる経費は、外国特許庁への印紙代、現地代理人の費用、国内代理人の費用、翻訳費用など幅広く認められています。

この補助金を受けるためには、すでに日本出願(PCT出願を含む)を行なっていることが条件とされています。

そして、その日本出願と同一内容でする予定の外国出願について、あらかじめジェトロに申請し、審査に通り、補助金の交付決定を受けておく必要があります。

またジェトロだけでなく、各地域の中小企業支援センター(大阪産業局、奈良県地域産業振興センター、京都産業21、新産業創造研究機構、三重県産業支援センター、滋賀県産業支援プラザ、わかやま産業振興財団など)でも、その管轄区域内に本社等をおく中小企業に対し、ジェトロと同様に、外国出願の費用の1/2の補助金を交付する事業が行なわれています。

 

ところで、ジェトロまたは中小企業支援センターの補助金を受けるには、かなり早い段階で、スケジュールを確認しておくことが重要です。

なぜなら、ジェトロや中小企業支援センターが定めるスケジュールと、条約で定められた外国出願の期限とを、両方とも守れる期間が限られているからです。

「まだ間に合う」と思っていたのに、検討すると、実は「もう手遅れ」ということが少なくありません。

そこで、ジェトロ等が定めるスケジュールと、条約で定められた外国出願の期限との関係について、以下説明します。

 

ジェトロ等が定めるスケジュール

補助金のスケジュールは、毎年、ジェトロや各地域の中小企業支援センターから発表されます。

このスケジュールは毎年異なり、またジェトロや地域の中小企業支援センターのそれぞれで微妙に異なるのですが、おおよそ以下のとおりです。(あくまで目安です。実際のスケジュールは各機関が発表する資料をご覧ください)

  • 4月頃   補助金のスケジュールの発表
  • 5月~8月 補助金の申請書の受付期間(2~4週間程度)
  • 7月~9月 補助金の交付決定の可否が通知される
  • ~12月末 外国出願を完了

ここで、補助金の申請書は、ジェトロや中小企業支援センターがそれぞれ定める2~4週間程度の受付期間に提出しなければなりません(期間厳守)。

また、ジェトロの申請書にも、中小企業支援センターの申請書にも「外国出願に関する代理人契約、出願準備、出願手続きなどすべての作業は採択(交付)決定後に行い、事前着手を行わない」ことが確認事項として記載されています。

つまり、春~夏に補助金の申請書を提出し、その後、夏~秋に補助金の交付決定を受けることに成功すれば、補助金の交付決定を受けてから12月末までの数ヶ月間の期間で、外国出願のすべての作業(翻訳を含む)を完了させる、というスケジュールです。

ジェトロ等が定めるこのスケジュールに沿って手続きしなければ、補助金を受けることができません。

 

条約で定められた外国出願の期限

外国出願は、特許の場合、パリルートの出願とPCTルートの出願とに大別されます。

パリルートの出願は、日本出願から1年以内に外国出願することで、その外国において日本の出願日を基準とする優先的な扱いを受けることができるというものです(パリ条約4条)。

つまりパリルートの場合、外国出願の期限は、日本出願から1年以内です。

一方、PCTルートの出願は、PCT出願を日本特許庁に提出することで、まずはPCT条約に加盟するすべての国(約150ヶ国)で出願日のみを確保し、その後、日本出願から2年6ヶ月以内に、外国語に翻訳した出願書類等を外国特許庁に提出することで、その外国において権利化のための手続きを進めることが可能になるというものです(PCT条約11条、22条)。

つまりPCTルートの場合、外国出願の期限(外国特許庁に出願書類等を提出する期限)は、日本出願から2年6ヶ月以内です。

 

ジェトロ等が定めるスケジュールと条約で定められた出願期限との関係

2019年のジェトロの補助金のスケジュールは、以下のとおりでした。

  • 6/24~7/29 補助金の申請書の受付期間
  • 9月中旬      補助金の交付決定の可否が通知される
  • ~12月末     外国出願を完了

 

<パリルートの場合>

それでは、2019年9月1日を期限とするパリルートの外国出願を予定している場合、ジェトロの補助金を受けるには、どうすればよいでしょうか。

答えは「ジェトロの補助金は受けることができない」です。

なぜなら、ジェトロが定めるスケジュールを守るためには、2019年9月中旬に補助金の交付決定を受けてから12月末までの数ヶ月の期間で外国出願のすべての作業をする必要があり、一方、条約で定められた外国出願の期限を守るためには、2019年9月1日までに外国出願を完了させる必要があり、この両者を同時に実現することはできないからです。

ではどうすればよかったかというと、少なくとも2019年9月中旬以降(できれば2020年1月以降)に外国出願の期限がくるように、もともとの日本出願の出願日を遅らせるしかなかったということになります。

結局、パリルートの外国出願について、ジェトロの補助金を申請するには、もともとの日本出願を1月~6月頃に行なっておくことが望ましいです。

これにより、補助金の申請書の受付期間である7月よりも前に、日本出願を完了しておくことができますし、9月中旬に補助金の交付決定を受けてから12月末までの期間をフルに使って外国出願のすべての作業(翻訳を含む)を進めることが可能となります。

同様に考えると、中小企業支援センターの補助金を、パリルートの外国出願について申請するには、もともとの日本出願を1月~4月頃に行なうことが望ましいです。(あくまで目安です。地域によって中小企業支援センターのスケジュールが異なりますので、詳しくは、各中小企業支援センターが発表するスケジュールをご確認ください)

 

<PCTルートの場合>

一方、2019年9月1日を期限とするPCTルートの外国出願を予定している場合、ジェトロの補助金を受けるには、どうすればよいでしょうか。

答えは「2019年のジェトロの補助金は受けることができない」です。

理由は、パリルートの場合とまったく同じです。

ではどうすればよかったかというと、PCTルートの場合は、1年前の時点で、2018年のジェトロの補助金を申請すればよかったということになります。

PCTルートの場合、外国出願の期限が2年6ヶ月と長いですので、早い段階で補助金のスケジュールを検討しておくことにより、補助金の申請を確実に行なうことが可能です。

結局、PCTルートの外国出願についてジェトロ等の補助金を申請するには、PCT出願を日本特許庁に提出した段階で、ジェトロ等の補助金の今後のスケジュールを予想し、補助金を申請することができる年度をあらかじめ把握しておくことが望ましいということになります。

 

意匠・商標について

意匠について外国出願する場合は、パリ条約で定められた外国出願の期限が、特許の場合よりも短く、6ヶ月しかありません。

そのため、もともとの日本出願の出願日が決定した時点で、ジェトロが定めるスケジュールを守ることができるか否かがほぼ決まってしまいます。

すなわち、意匠について外国出願の補助金を受けるには、もともとの日本出願をする段階で、ジェトロが定めるスケジュールと、条約で定められた外国出願の期限とを、両方とも守れるタイミングをピンポイントに狙って日本出願をする必要があります。

なお、意匠の外国出願について、ジェトロ等の補助金を受けるには、パリ条約に基づいて出願することが要件とされています。

一方、商標については、パリ条約に基づかない外国出願についても、ジェトロ等の補助金を申請することが認められています。

そのため、日本で出願中の商標だけでなく、すでに日本で登録済みの商標についても、外国出願の補助金の申請をすることが可能です。

商標については、特許や意匠のようなスケジュールの調整は必要ありません。

 

以上のように、特許や意匠について、外国出願の補助金を受けるには、かなり早い段階で、スケジュールを検討しておくことが重要です。

 

ちなみに、ジェトロ等の補助金の交付決定を受けた場合、やむを得ない事情を除き、出願を放棄することができません(出願を放棄するには、ジェトロ等の事前の承認が必要です)。

つまり、外国の拒絶理由通知を受けたときに「応答せずに放置する」という選択肢をとることはできません。

最終の審査結果が出るまでは、出願を継続しなければならない点に注意が必要です。